黒い車体に、私の指が映る。

軽くドアを引けば、あなたの匂いが身体中を包み込むかのように 流れてくる。目の前には助手席があって、私は少し急いでそこに座る。
背もたれに寄りかかって、横目で横顔を覗いた。

いつものスウェット姿。

遅かったね。外寒いね。

ああ、寒いね。待たせてごめんね。

ドアが閉まれば、そこは私たちの空間。私たちの世界だった。

やけに1人の女性に一途な硬派な歌詞の曲ばかり流れている。
彼はゆっくりとアクセルを踏んで、車が発進した。

どこに行くわけでもない。どこかに行きたいわけでもなく、ただ私たちは
ただ進む暖かな車の中で 無言のまま、愛を伝えた。