【答えてください。】

慎一郎は姉を思い出していたが、打ち込まれた文字を見て我に返った。

[覚えていません。]

【そんなわけないですよね?】

[本当です。僕は扉の前で立っていただけで、何も見ていないんです。]

【隼さん達が居ない間、慎一郎さんは何をしていましたか?】

[逃げ出さない様に見張っておけと言われたので、見張ってました。]

【その間、何をしましたか?】

[何もしていません!]

【そうですか…では、質問を変えます。】
【主犯格は隼さんでしたよね。】
【では何故、監禁されてたのは貴方の家だったのでしょう?】

[高校一年生の終わりに退学した奴がいたんです。そいつと友達でした。]
[彼はよく遊びに来てて、そのうち彼の友達も来ることが増えて…。]

【それが隼さんですか?】

[はい。]

4本目の火柱が上がった。

【慎一郎さん、嘘は良くないです。】
【万引きをバラされたくなかったんですよね?】
【隼さん達が居ない間何をしてたか知ってますよ。】

慎一郎の体が微かに震え出した。

【自分を守る為に同じ歳で、クラスメイト高梨 水穂さんを死に追いやったんですよね?】

[違う!それは、、、、、、、。]

5本目の火柱が上がった。

[待って。そうだよ。高梨さんは何も言わなかった。それをいい事に僕は自分を守ったんだ。]

6本目。

[正直に答えてるじゃないか?もう火を点けないで!]

7本目。

[ごめんなさい!後悔してる!あの時警察に言ってればよかったって思ってる!]

【では、何故、通報しれくれなかったんですか?】
【貴方にほんの少しの勇気があれば、水穂さんは今でも生きていたと思いませんか?】

[思う!思うから、頼む!火を消して!!!]
[熱いんだ!肌が焼けそうなんだ!]

【水穂さんも、同じ事を言いませんでしたか?】

瞬間、慎一郎に体が硬直した。
小さな体の揺れは、次第に大きくなりガタガタと揺れた。

[なんの事ですか?]

【貴方にライターを近付けられた時、水穂さんも同じことを言いませんでしたか?】

慎一郎は黙った。

【何度も熱いと、何度もやめてと慎一郎さん、貴方に言いませんでしたか?!】

[言ったよ。何度も何度も。涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら、言ってたよ!]
[でも、するしかなかったんだ!!]
[じゃなきゃ、僕がされてたんだから、仕方がないだろ?!]
[そんな事で、僕の人生を壊されたくなかったんだ!]
[学校の連中も先生も親も、 僕に期待してた!僕は将来を約束された優等生だったんだ!]
[たかがシャーペン一本万引きしただけだ!]
[僕は、高梨さんとは全く関係がないんだ!]
[僕だって被害者だ!]
[彼女を殺したのは、彼奴らなんだから!!]

【言いたい事はそれだけですか?】
【なんて、自分勝手な人なんですか?】
【人一人の命をなんだと思ってるんですか?】
【関係ない。そうですか、関係ないんですか。】
【では、慎一郎さんの命がなくなる事は、私にはどうでもよく、全く関係ないことです。】

慎一郎の顔が引きつった。
体の揺れは一層大きくなり、椅子から大量の水が伝え落ちた。

【慎一郎さん…お漏らしですか。】
【汚いですね。】
【水穂さんも部屋で…】
【部屋から出させてもらえなかった水穂さんは、部屋でするしかなかったですよね。】
【その水穂さんに 汚い と言って貴方は水穂さんの腹部を蹴った。】
【慎一郎さん…まさしく今、貴方も汚いですよ。】
【ですが、燃えてしまえば何も残りません。】
【貴方方がした事です。】

9本目の火柱が上がった。

火はじわじわと慎一郎の肌を焦がし始めた。
パソコンは形が変形し始め、キーボードの形もなくなりつつあった。
秋生は目の前で起きてる事に目を背けたかった。
けれど、体が硬直してるのか目を背ける事も、目を瞑る事も出来ずにいた。
慎一郎は炎の熱さに椅子から立ち上がるが手は固定されてる上に、渦の真ん中にいるので逃げ場はない。
慎一郎の目の前のパソコンは機能を失っているが、なおもスクリーンの文字は続いた。

【最後の一本点けないでも慎一郎さんは死にそうですね。】

慎一郎の口が何か言いたげに何度もパクパクする。

【空気を欲しがる魚のようで、滑稽ですよ。】

肩ぐらいまである慎一郎の髪が次第にチリチリと燃え始めた。
離れていても臭いは秋生のもとまで、届いた。
その熱は次第に、慎一郎の肌を焦がし始め、臭いは一層強くなった。
人間が燃やされていく臭いに、吐き気がする。
潰された様な声の、叫びにならない叫び声が響く。
秋生は目を閉じる事も、顔を逸らすこともせず、慎一郎が燃えていく様を見ていた。
頭上にあるライトのガラスが炎の熱でパリンと音を立て、電気が消えた。
暗闇に人間が燃えてる灯りだけが、目に焼きつく。
次第に微かな声は聞こえなくなり暴れてた体は、まるで椅子に置かれた燃えた黒いマネキンの様になった。
死んだ慎一郎を確認したのか、筒の炎は静かに消えていった。
慎一郎を燃やした炎は燻り続け、静かに消えた。
そしてまた、暗闇に戻った。

こんなはずじゃなかった。
僕の未来はこんなはずじゃなかったのに‥‥‥。
慎一郎の声はもう、誰にも届かなかった。