「あーあ、俺も月光の姫を見てみてえな。」




「…そんなに沙月が気になる?」




「沙月?…お前この前まで"若宮さん"って呼んでなかったっけ。」





…あ。




目の前で首を傾げている松坂にやってしまったと察した。





嫌な汗が出てきてるのを背中で感じる。





本人に名前で呼べって言われてからずっと"沙月"と呼んでいたから、つい…。





どうしよう、と頭で焦っているのを隠しながら平然を装う。






「…ほら、若宮さんって他クラスにもいるから紛らわしいと思って。」




「…いたっけ、他のクラスに。」




「いたよ、ほらえっと…、GかFかDとかそこら辺の組に。」






ほとんど関わりのないクラスの名前を挙げてみると、渋々松坂が納得したようだ。





疑いがまだ残っているような顔をしながらも目の前の焼肉にガッツいたのを見て、ホッと安心する。






ごめん、他のクラスに『若宮』って名前がいるかは知らないんだけど。






できればいてほしい。ていうかGかFかD辺りに若宮がいてくれなきゃ困る。






お願いです、若宮って名前が沙月以外にもこの学校にいますように。





若干伸びてきたラーメンの麺を食べながら、気づいたらヘンテコなお願いを僕はしていた。