「…じゃあ、うちここなの。」



そう告げた彼女の声に寂しさがともっていた。



それに、うん、と頷いて沙月と向き合う。



お互いに無言で動けなくて、どちらからともなく小さく吹き出してしまった。




「…ふふっ、なにか言ってよ。」



「そっちこそ。」




2人して笑って、また目を伏せる。




「…ありがとうね、すずくん。本当に。生きてて良かった。」



「こっちこそ、ありがとう、沙月。とびきり素敵な日々だった。」




僕がそう言うと、いつもみたいに嬉しそうに笑ってそっと僕の手をとった。




「…またね。」


「うん。…またね。」




小さな手がゆっくりと僕の手をはなす。



一瞬で冷えた手の体温が、彼女がいなくなってしまうことを示唆していた。



目に焼き付けるように見ていた彼女の瞳は、また少しだけ潤んでいて。




はにかんだ顔を切なくさせる。




「…すずくん、先帰りなよ。」



「沙月が中に入るまでは帰れないでしょ。」



そう言い返せば不満顔をされる。



だけど、降参したのか、小さく「…わかった。」と言われた。