「その“すずくん”ってあだ名。」
僕達2人だけの空間に、また静かな風が舞い込む。
それが余計に彼女の動きを止めた。
「…沙月以外に、誰もそのあだ名で呼ばないんだ。平凡すぎた…、僕の唯一の“特別”。だから…、だからっ…、沙月がいなくなったら、僕の特別…、なくなっちゃう、っ。」
言葉がつまる。涙だけは流さない。
そう決めていたから唇をぎゅっと噛み締めた。
だけど、僕の肩にある華奢な頭は震えていた。
小さな嗚咽が聞こえた。
ねえ、ごめん。
未練がましくて、ごめんね。
でもね、まだ、まだって思っちゃうんだよ。
きっと1ヶ月じゃなくて1年だったとしても、10年でも、最後の日になったらこうやってもがいてもがいて、まだいてほしいって願うんだろう。
だって、まだ足りないんだ。
もっと、沙月といたいんだ。