あの時は本当に驚いたな。
軽い気持ちで開けたのに、淵に女の子がいるなんて思いもしなかった。
「んふふ、再現してみる?」
「心臓に悪いからやだ。」
いたずらっ子みたいに顔を覗き込まれるけど、断る。
いくら死なないってわかっていても、沙月が飛び降りるなんて心臓に悪すぎる。
「私はねー、嬉しかったよ。振り返ったら、すずくんがいてくれた時。」
「本当に?」
「うん、だって健康な体を手に入れてもやりたいことなんてありすぎて、何やればいいか途方に暮れてたの。ただ死なないってことを確認することしかできなかった。」
「だからって、いきなり飛び降りられてもこっちも戸惑うって…。」
「あははっ!それもそっか。でもね、私は『運命だー!』って嬉しかったのっ、だってあのすずくんが目の前にいるんだもん。」
…“あの”すずくんって、なんだろう。
僕の疑問が顔に出たのか彼女は意味深に、ふふふと笑って「すぐわかるよ。」と言った。