「十波ってさー、好きな人とかいないの?」


新しい教室に入るなり、七ちゃんが大きな声でそんな事を言った。


「前にも言ったじゃん。私、男の子を好きになった事がないって」

「じゃあ女の子ならあるの?」

「違うわい!」


鉄板ネタなだけあって、ツッコミのタイミングは我ながら素晴らしいと思う。


「いいなー。あたしも素敵な恋してみたいなー」


少女マンガを手に、恋に恋する七ちゃん…。


「てかさ、七ちゃんって変だよね…。少女マンガを読むくせに腐ってるって」


対極のような感じもするけど。


「うーん…やっぱりそんなもん?」


「何、誰かに言われた事あるの?」


「こないだ兄貴にね」


七ちゃんとお兄さんはすごく仲がいい。

互いに秘密なんてない、って七ちゃんは言ってた。


「よっこいしょー」


鞄を机の横に掛けて、硬い椅子に腰掛けると、



「あれ、十波じゃん」



なんて、頭の上から男の子の声が降ってきた。