ちょうどその頃。

「あっれえ?熊野さんじゃないですかあ!」
「お、トーコちゃん?どうしたの、荷物抱えてさ」

自宅マンション前では、家族の反対を押しきって強引に戻ってきた燈子と、熊野吾郎がバッタリと鉢合わせていた。

 “持つよ”
荷物を肩代わりした熊野は、替わりに、装丁の凝った綺麗な封筒を差し出した。

「これ、結婚式の招待状」
「え、じゃあ、ついに?」

熊野は、照れ臭そうに頭を掻いた。

「ああ、あれからも結構悩んでさ、思いきって全部彼女に話してみたんだ。
そしたら彼女、“いいよ、待つから”って。それで逆に目が覚めたね」

「ほー…そんなもんですかぁ」

シミジミと頷く燈子に、熊野は優しく微笑みかけた。

「大神には背中押して貰ったり、一応世話になったからな。
ついでに挨拶しとこうと思って。
…それにトーコちゃん、君のお蔭でもあるんだぜ」