「そこをどいてください。」

伊川先輩はその場所からどく気配はない。

「私はこれから忙しくなるんです。暴走族なんていう遊びに付き合う時間なんてもうないんです。」

私は一歩前に進んだが、伊川先輩がどいてくれないのでそれ以上進めなかった。

「海人、外してくれ。」

海人さんは頷いて外に出て行った。

「私、人を待たせているんですけど。」

「ああ、知っている。それよりお前はどう思っているんだ。」

「何に対してですか。」

「お前の状況についてだ。組長になりたいのか。」

伊川先輩は私の目をまっすぐ見つめ、問うた。

「私にはなりたいかなりたくないかではなく、なるという選択肢しかないのです。」

私も伊川先輩のきれいな瞳を見つめてはっきりそう告げた。

「そうか。なら俺も伊川グループの次期社長としてお前を支えていく。」

伊川先輩は意外なことを言い残して家から出て行った。

私も鞄を持って家から出た。

外では車の前でヤスと海人さんが話していた。

「ヤス、行くよ。」

私は鞄を膝の上に載せて助手席に座った。

「はい、お嬢。」

ヤスも車に乗り込んだ。

「ねぇ、ヤス。海人さんと何を話してたの?」

「お嬢のここ最近の様子を聞いてました。お嬢、一か月も怪我で入院なさっていたんですね。」

ヤスは少し悲しそうな表情をしてそう言った。

私が何も言わなかったのが寂しかったのかな?

そう考えると厳ついヤスでもかわいく見えてくるな。

私は無意識に笑っていたようで、ヤスに指摘されてしまった。

「何を笑っているんですか?」

「べ、別に。」

私がそういうとヤスはそうですかと前を向いた。