「もうそろそろ完全下校時刻だ。早く帰らないとここから出られなくなっちゃうよ」


振り返ってハルは私を見る。

優しい目、温かい言葉。

ああ、いつも私はこの屋上で、このやさしさに包まれていた。


「さあさあ、はやく帰んな」


「ちょ、ハル!」


ハルは私を追い立てるように屋上の扉に連れていく。

風が強く吹いて、屋上の扉が開いた。

私は屋上から一歩踏み出して扉の内側に出た。


「ハル!」

「ん?」


私は耐えられなくなって名前を呼んだ。


「ハル、また会えるよね?」


このままハルと別れたら、私は明日もまたハルに会える保証がない。

いつも、いつだって保証なんてどこにもなかった。

でも会えるって確信はあった。

だけど今はどこにもそれはない。

会えるんだって信じたくて。

当たり前だって言ってほしくて。

私はすがりつくようにハルに尋ねた。


ハルは「じゃあね」とやさしく微笑んだ。

私は目を見開いた。


「ハル!」


そのとき扉がバタンと大きな音を立てて閉まった。

最後に見たハルの笑顔が、しぐさが、忘れられない。

いつもみたいに目を細めて微笑んで手を振っていた。


ハルは『またね』とは言ってくれなかった。

『じゃあね』って、それだけ言った。


それはきっと、もう会えないって言っているんだと思った。


もうハルには会えない。

会えないんだ。


悔しくて、悲しくて、仕方がなかった。