「え?いや、俺はそんなつもりじゃ……」

「先輩みたいな人気者が言うと、お世辞でもなずなちゃんは舞い上がっちゃうんですよ。やめてください」

「ちょっと、桃矢!」


さっきまで空気だったくせに、なんで急に出てくるかなぁ?

お世辞でもいいもん。先輩が言ってくれたことに意味があるんだし。


「………お世辞、か」


先輩が呟くように言うと、さっきまでの穏やかな笑みを消していた。

もしかして、桃矢が生意気だから怒っちゃった……?


そうだよね。いくら先輩が優しいからって、後輩に変なこと言われたら普通怒るよね。


「桃矢くん」


先輩が真剣な眼差しで桃矢を見据える。


「なんですか?」


桃矢は余裕そうに笑った。

緊張感の走る2人雰囲気が心地悪くて、わたしの肌を不気味に撫でてくる。


わたしがごくりと息を飲み込めば、先輩がまた口を開いて。


「俺はお世辞なんて言わないよ。なずなちゃんのこと、本気で可愛いと思ってる」


わたしの呼吸を止めるようなことを、さらりと言ってみせた。


うそっ…………。

じゃあ、本当に?

本当に先輩は……わたしのこと、可愛いって思ってくれてるの?


「それなら、いいですけど……。あまりなずなちゃんで遊ばないでくださいね?」

「ははっ、桃矢くんに心配をかけないよう、気をつけるよ」