普段ビクビクしているはずの桃矢が、今日だけはやけに気合いが入っていた。

驚きのあまりパチパチと瞬きを繰り返す。


んなっ………!?

急に変な人格出してこないでよ!


いつもはヘタレ全開のコミュ力皆無人間のくせに、無理しちゃって。

そんなにわたしが心配だったの?


「すみません先輩!勝手に変なの連れて来ちゃって……」

「ううん、気にしないで。なずなちゃんの幼なじみなら、むしろ大歓迎だよ」

「ありがとうございます……!」


さっすが萩原先輩!優しすぎる!!


「へぇ……思ってたより良い人そうですね」


それなのにこの男は………。

先輩の気遣いを台無しにする嫌な発言。

わたしにしか聞こえないよう小さな声で言うから、もっと最低だ。


「だから心配しなくても大丈夫って言ったのに」

「そういうわけにはいきませんよ」

「なにそれ。めんどくさ……」


ふいっと顔を逸らす。


桃矢ってこんなネチっこいやつだったっけ?

頼み事は絶対に断れないお人よしの塊みたいなやつだったのに、先輩の前だと雰囲気が違う。


理由はわからないけれど、とにかく嫌味なやつになってることは確かで。

そんな人を連れて来ても文句ひとつ言わない先輩は、やっぱり素敵なんだと実感する。