「こら!なずなちゃん怖がらせるなよ。みんなは先に教室行ってて」


女の先輩たちの気迫に押されていたわたしを庇って、萩原先輩が言う。


「蓮がそう言うなら……」

「じゃあ、先に教室で待ってるね!」


パタパタと離れていく女の先輩たち。

安堵と同時に、萩原先輩の影響力はすごいのだと実感した。


「待たせてごめんね。俺に何か用?」

「あっ、えっと……」


急に2人だけになると緊張しちゃう。

間近で先輩の顔を見るのは2回目。

まだ、慣れない。


「これ、昨日借りたハンカチを返しに来たんです……」

「わざわざ返しに来てくれたの?ありがとう」


ハンカチを受け取った先輩は、代わりに眩しい笑顔をわたしにくれる。


あぁ……ほんっとにかっこいいなぁ。

うちのヘタレ桃矢とは大違い。



「あと、その………わたし、自分の名前があまり好きじゃなかったんですけど、先輩に意味を教えて貰えてすごく嬉しかったです。だから………ありがとうございました!」


先輩の目をしっかりと見据えて、ようやく伝えられた。


わたしね、萩原先輩がかっこいいから好きになったわけじゃないんだよ。

確かに萩原先輩が気になった入り口は、ルックスや顔だったかもしれない。


でも1番は……先輩の優しさが、嫌いだったわたしを包んでくれたから。

それが本当に嬉しからったからなの。