………うん。そのまま奪って離さないで。

口には出さなかったけれど、言葉の代わりに桃矢を見つめ返した。


「………」


桃矢は何も聞いてこなかった。

何も聞かずに影を落として。

柔らかい感触が唇を塞いでいた。


わたしは受け入れるように目を閉じる。

これまで何度か桃矢にキスをされたことはあったけれど、今日は全く違う。

荒っぽさが微塵もない、甘く優しいキス。


心の奥にじわりと染みて、温もり離れる瞬間まで動かなかった。



「……んで、」

「え?」


「なんで、今度は逃げないんだよ」


自分から仕掛けてきたはずの桃矢が顔を赤らめる。


なんだ。

いつも余裕そうにしてたのに、本当はヘタレなりの頑張りだったの……?