「無理」

「っ………!?」


気が付いたら、桃矢がわたしの体をぎゅっと抱きしめていた。

え?と、混乱している隙に抱きしめる力が強くなっていて、息をするのも苦しいくらい。


ーーードキン、ドキン


こんなに近くにいたら、桃矢が好きだってすぐにばれちゃうよ…………。



「本当はただの嫉妬。俺がどんなに頑張っても振り向いてくれないのに、萩原先輩はあっさりなずなのこと奪っていくんだなって」


痛いほど心臓は暴れていたけれど、しっかりと桃矢の声が聞こえていた。

それと同時に、わたしと蓮先輩をそんな風に見ていたことに驚いた。


嫉妬なんかしなくたって、わたしはもう桃矢でいっぱいなのに。


今だって、苦しいけど嬉しいと思っている。

大好きな人に抱きしめられて喜ばないわけがない。

叶うことなら、このままずっと桃矢の温もりを感じていたかった。


「………でも」


と、桃矢がわたしの体をゆっくりと離す。

真っ直ぐにわたしを見つめる瞳には真剣な色が宿っていて、さらに胸が高鳴った。


「なずなが嫌なら応援なんてしない。今すぐにでも奪い取ってやる」