こんな状況でも優しく声を掛けてくれる桃矢を目の前にして、少しだけ安堵する。

本当は逃げた方がいいのかもしれないけれど、走って疲れた足はもう力が入らない。


「んで、なんで逃げたの?」


そう問いかける桃矢の言葉に、わたしは俯きながら答えた。


「だって……桃矢が先輩との仲を応援するようなこと言うから……」


涙声で返した言葉は、情けないほど震えていた。


桃矢は一度驚いた顔をしてから「なんだよそれ」と、切なげに言う。


「なずなは萩原先輩と付き合ってるじゃんか」


そうだよ。

そうだったよ。

でも、今は違うんだよ。


「ずっと邪魔してきたくせに、今になってそんなこと言わないで………」

「は……?」


桃矢の呆れた声が胸に刺さる。

今更こんなこと言うの、やっぱり変だよね……。


「ごめん、やっぱ今のなし……忘れて……」


強引に笑顔を浮かべて涙を強く擦った。

と、その時。