「あのね……」


頭で考えるよりも先に声が出る。

考える暇がないくらい、桃矢への想いが溢れて止まらなかったから。



「わたし、桃矢のことーーーーー」



けれど、その曖昧な判断に後悔をすることになる。


「なずなちゃーん、お待たせー!」


「っ、!?」


パタパタと早足でわたしの元へ走る先輩の姿を見て、思わず唇を強く噛んだ。


「あれ、桃矢くん?」

「こんにちは、萩原先輩」


首を傾げる先輩に涼しい顔で挨拶をする桃矢。

わたしは伏し目がちに俯いた。


………今、わたしは何を言いかけた?


蓮先輩っていう素敵な彼氏がいるのに、絶対に言ってはいけない言葉を言おうとしたような気がする。