「痛った………」
「最っ低!」
驚いた顔で頬を抑える桃矢に向かって、そう言葉を吐き捨てた。
わたしは悪くない………。
勝手にキスした桃矢が悪いんだもん。
ビンタ1発だけじゃ足りないくらいだ。
けれど、その強気な心も桃矢のせいで途端に萎む。
「なんで……」
「え?」
「なんで、俺じゃだめなんだよ……」
耳の奥に響く、弱々しい桃矢の声。
歪む視界で桃矢を見ると、なぜか酷く傷ついた顔をしていた。
なにさ……泣きたいのは、わたしの方なのに。
それでも、桃矢を傷つけたのは、間違いなくわたしだった。
「僕が萩原先輩みたいな人になれば、なずなちゃんは僕を好きになってくれるんですか……?」
「桃矢が先輩になれるわけ、ないじゃん」
いくら桃矢が萩原先輩の真似をしても、好きになるわけじゃない。
そんなの、桃矢だってわかってるでしょ?