「………」


すると桃矢は、ゆっくりとわたしに近づいてきた。

じわじわと距離を詰められて、後ずさりした背中が壁に当たる。


「な、なに……?」


顔を上げると、桃矢と目が合った。

前髪の隙間からのぞく不気味な瞳。

ドクンと心臓が鳴った後には、もう遅くて。


ーーーダンッ!

大きな振動と共に、逃げ道を塞がれた。


「近いんだけど」


両手で挟まれたわたしの体。

もう一度桃矢と向き合った。


「俺を好きになれよ」


その瞬間、耳の奥に響くいつもより少しだけ低い桃矢の声。

ドキドキと心拍数が速まるのは、聞き慣れない声色のせいだ。


「やだ……」


今更「嘘でしょ?」なんて言えなかった。


信じられないけど、たぶん本気だ。

桃矢は、本当にわたしのことが好きなんだ。