「ホント……凄いよな……。あんなことあったのに、俺だったら……そんなすぐに、切り替えらんねぇよ……」


「(……うん、そうだね。でも……樹生先輩らしい、かな)」



呟いて、蓮司を見て苦笑いを零せば、再び蓮司が苦しそうに顔を歪めた。


先輩は……いつだって、人知れず努力を重ねてきた。


そして今度は、その努力の上に新しい努力を重ねて、新たな道を自分の力で切り拓こうとしてるんだ。


周りがどんなに先輩を認めようとも、結果に怠ることもなく、どこまでも自分に厳しくできる人。


そんな先輩がまた、どれだけ自分を追い込んでいるのか……


その姿を思い浮かべただけで涙が出そうになって、思わず制服のスカートの裾を握り締めた。



「だけどさ、俺……それ聞いて、先輩が栞に会わないのは、その受験のためなんじゃないかと思えてきて……」


「(…………え?)」


「だってさ、あれだけ栞のこと守ろうとしてた人が……そんな急に、何も言わずに連絡を断つなんて有り得ないだろ?」