思わず聞き返してしまった私に、「うん……」と、気まずそうに頷いた蓮司は視線を下へと落とした。


先輩が、元々推薦で受験する予定だった私立の大学は県内にある某有名大学の医学部だった。


樹生先輩のお父さんが卒業した大学で、何より先輩は通いやすいという点でも好条件な大学なんだと、以前、冗談交じりに話していたけれど。


その時は─── もし、先輩がその大学に合格して大学生になったとしても、100分の1の確率でも、偶然先輩と会えるような奇跡があるかもしれないと淡い期待を抱いていた。


だけど、たった今蓮司が言ったように、先輩が県外の大学を受けて合格した場合には、その可能性もほぼゼロになってしまうということだろう。


先輩のことだから、わざわざ時間とお金を掛けて、遠くにある大学までの道程を毎日往復するような、非合理的なことをするとは思えない。


県外の大学ならきっと、先輩はその近くでまた一人暮らしをするんだろう。


だとしたら、もう本当にこれっきり樹生先輩とは会えなくなるのかもしれないということだ。