男は逡巡してから、思い切ったようにセルトを見上げた。


「その女なのですが……今晩、泊めて欲しいと申しておりまして」


沈黙。


「……は?」


セルトは呆気に取られた。彼だけではない。
背後にいた、ヒーレンとアダルスも驚きを隠せないようだった。
だが、女と問答していたり、それを見ていた侍従や侍女たちは
大して驚いていない。


「と、とにかく、お目にかかるような相手では……」


「それは私が判断することだ」


セルトは男を押し退けると、女の方へと歩み寄った。
全く見えていなかった女の姿が、セルトの瞳に写った。


女は、床に座り込んでいるようだった。


柔らかな銀の髪は癖が強く、
俯いてはいるが少し覗いている白い肌は透き通っている。

華奢な肢体、纏っているドレスはぼろぼろで、
所々が裂けて血が滲んでいる。


「―――……」


確かに、族王ともあろう者にお目にかかるような者ではなさそうだ。

しかしセルトは女に近寄った。
背後で誰かがそれを止めようとするが、彼は無視した。


「……女」


びくり、と、女の肩が上下する。


「何者だ」


女は答えない。


「此処が何処だか、分かっているのだろうな?
知らぬでは済まされぬぞ」


不意に―――女が顔を上げた。

誰かが息を呑む。
セルトも瞠目した。


女は――美しすぎる少女だった。
否、少女と女性の間のようで、判断できない。


身体が冷え切っているからか、白い肌は紙のように白く、
血の気が失せている。

双眸は、色素の薄い金色だ。

唇はふっくらとしており、鼻筋も通っている。


「―――ご無礼を、お許し下さい」


少女が口を開いた。