そしてもう一人、二人の向かい側から走ってくるのは―――。
「おい、セルト、ヒーレン!!」
大声叫びながら、何者かが駆けて来る。
襟足辺りの長さの黒髪、それと同じ色の瞳は、
炎一族の中では珍しいものだ。
遠くから駆けて来るが、小柄なのが顕著だ。
しかしそれもセルトやヒーレンと比べるからで、
一般的な標準の高さである。
黒髪の人物はセルトとヒーレンの前で止まると、
両膝に両手を置いて膝を軽くかがめると、
はぁはぁと荒い息を繰り返した。
「アダルス」
セルトにアダルスと呼ばれた男は、
顔を上げた。
彼もまた――
セルトが心を許した友人なのである。
「せ、セルト……、
ちょっと一緒に来てくれ」
「は?お前、軍の後片付けは……」
アダルス、ヒーレンの二人は、
近衛軍の軍人であると共に、
族王であるセルトの侍従も勤めていた。
これは言うまでもなく、珍しいことである。
アダルスは荒い息を押さえつけながら、
友に叫んだ。
「ふ、不審者だ!!女が……女が城に」
「何だと」
セルトは怪訝そうに形の良い眉の片方を吊り上げた。
そんなこと、あるはずがない。
此処は、炎一族の本拠地であり、
天下の炎一族族王家の住居である。
当然、何重にも侵入者防止の魔法が掛けられてある。
だのに。
「本当だ、それも、正面玄関から……」
三人は走り出した。