「おう、お疲れ」


会議室の扉を出た瞬間、声を掛けられた。


「……ヒーレン。お前、練習はどうした」


軽い驚愕を含んだ声が、ヒーレンと呼ばれた男に降りかかる。

ヒーレンは自慢気に言い放った。


「いつも通り。逃走?」


なはは、と声を立てて笑う青年を、
男が睨みつけた。


「そーんな顔すんなって。
良い顔が台無しだぜ?族王陛下よ」


「五月蝿い」



男は、炎一族の族王だった。

先日、十八歳の誕生日を向かえ、
御名を「セルト・ソウヴィル・ルーディアス」というのだった。


長い、淡い金髪を首の後ろで一つに縛っている。
深い翠の瞳、すっと通った鼻筋、薄い唇。
肌は白く、育ちの良さを想像させる。

しかし背は高く、服に包まれた身体は
それなりに筋肉が付いている。


彼を、魔法界で知らない者はいない。
理由は幾つかあるが、
一番強い理由は彼のその輝くような美しさだろう。

その上、学生の時代には、
魔法界の全ての王族が通う名門学校、
「アルトサダム魔法魔術学校」炎一族寮を
首席で卒業した。

更に加えて、在学中に
先代の族王――彼の父王が死去し、
十一歳で即位した。
そして学業の傍らで、
族王としての政治に力を出していたのだった。


あまりにも有名すぎる族王だが、
彼は王子時代、あまり良い呼び名では呼ばれていなかった。


彼はこう呼ばれていた。




『氷の王子』と―――。