見晴らしの良い丘。
僕は、近所に住む一つ年下の智美を連れて良くこの丘に来た。
ここは視界を遮る物が少なく、どこまでも視界が広がっていく。
まだ幼い僕達の辞書には地平線などという言葉は記されていない。
永遠に世界が広がっていると信じていた。

ここから空を見上げると、太陽よりも、月よりも大きな宇宙船が見える。

超大型コロニー型シャトル
『アームストロング』

父はこれを人類の未来だという。
人類を救う正義のヒーローがアームストロングに搭乗するそうだ。

幼き日の僕は正義のヒーローという響きにたちまち心を奪われ、このアームストロングに大きな憧れを抱いていた。

「みつくん、この大っきなお船が大好きだね。ともちゃんはお人形さんがいい」

智美はいつもそう言うと、赤い帽子を被った熊のぬいぐるみのキーホールダーを大切そうに撫でていた。