「ね、マスター。その拓海さん?ってどんな人?」
興味があるのか、ただの好奇心か、妃毬が詰め寄ればマスターは困ったように眉を下げる。
いつの間にか、だいぶ増えた同級生の人数。
その大多数は話が聞こえていたのか私や妃毬、マスターを興味深々に見ている。
「出来た男だよ。顔よし頭よし器量よし、なんでもできる男だよ、ただ不器用だけどね?」
「うわ…完璧じゃない!奏多ったらどうやって捕まえたわけ?」
拓海さんをべた褒めするマスターに驚いたように目を丸くする妃毬。
私は居心地悪く苦笑を浮かべるしかなくて、周りになんて気を回せなかった。
「はい、妃毬ちゃんはブルージーンで奏多ちゃんはジンジャーエール。」
スッと出された飲み物に私はマスターを見るがマスターはクスリと笑い目を細めている。
「お酒弱いんだから、それに奏多ちゃんに何かあれば君の婚約者に何言われるか…」
大袈裟に肩を竦めるマスターに自然と口許が緩んだ。
お客様をよく観察して、その時に合ったものを出せるマスターは私の憧れでもある。
「でも、同窓会なんて名ばかりの飲み会よねー」
「ふふ…でもこうしてみんな元気なんだから良いんじゃないかな?」
同窓会と言えばみんなで乾杯とかして親睦を深める、みたいなイメージがあるけど今回の同窓会はただの飲み会みたいに好き好きに飲んで、好きなようにお喋りをする。
そんなスタイルは決して嫌いではないし、こうして昔の友人の今を見られるのは楽しかったりもする。
「でも良いなぁ、玉の輿。」
「妃毬そればっかり。…別に私は玉の輿とか興味ないもの、ただ」
「相変わらず綺麗事ばっか。」
苦笑していた私は聞こえた声に心臓が冷たくなるような錯覚すら覚えてしまう。
できれば、違う…絶対に会いたくなかった人。
可愛らしい笑顔を見せる子だった。
人懐っこくて親友だって呼べる子だった。
「………みき…」
会いたくなかった。
ワタシの罪の象徴でもあるアナタには会いたくなかった。