眉を寄せる私を目をパチパチとしながら見ているおじいさんは口許を緩ませ、優しく笑う。


「優しいお嬢さんだね。ありがとう。」

「お礼なんて、私は何もしていませんから。」


負けじと笑顔でポケットからハンカチを取り出し、おじいさんの汗を拭けばまたありがとう、と笑顔をくれる。


「お嬢さんのお陰で大分楽になったよ。」

「よかった…じゃあ救急車はいりませんか?」


少しおどけてそう言えばおじいさんは可笑しそうに笑いながら首を縦に動かした。


「さぁ、もう戻りなさい。私は大丈夫だから。」

「でも…」

「もうじき迎えもくる。お嬢さんは任された仕事をしなさい。」


渋る私に笑みを見せたまま立ち上がるおじいさんに眉を寄せて渋々頷けば満足そうに笑うおじいさん。


「そう言えば名前を聞いていなかったね。」

「葵です、おじいさん。」

「そうか、葵ちゃんと言うのか。本当にありがとう。さぁ、行きなさい。」


背中を軽く押され、私は後ろ髪を惹かれながらも回転ドアに向かって歩く。
何度か振り向くとおじいさんが笑顔で手を振ってくれていて、私もそれに手を振り返す。それを何度か繰り返し、ようやく会社の中へ戻った。