飲みはじめてどれくらい経ったのか、体が熱いし、何より頭がぼーっとしている私に苦笑を浮かべる拓海さんが見える。


「奏多、大丈夫?」

「…はい………だい、じょぶですよ?」


自分でもあまり大丈夫じゃない気がするけど、とりあえず大丈夫だと言い張ってみる。


「大丈夫じゃないだろ…伊織、」

「あぁ、後で行くわ。」


呆れた口調の拓海さんにグラスを取り上げられて、ふわりと浮く体に驚いて目の前の服に縋り付く。


「た、拓海さんっ」

「歩いて転んだら大変だからね。」


誰もが一度はされてみたいであろう"お姫様抱っこ"に恥ずかしくて何も言えない私を何の苦もなく、普通に歩いて運んでしまう拓海さん。


「少し風に当たろうか?」

「大丈夫、だいぶ醒めたから…」

「それならよかった。……奏多、俺に何か言う事はない?」


抱き上げられた状態のまま、ピシリと固まった私に拓海さんは苦笑を浮かべ、私をゆっくりと床に降ろすと目の前にある扉を開けた。

そこは私が初めて、拓海さんと結ばれた部屋…拓海さんの部屋で、ベッドを見て目を逸らしてしまう。


「……伊織の事か?」

「え…なんで」

「中庭で伊織の電話を聞いた、とかじゃないのか?」


手を引かれ、ベッドに座ればそう聞かれてしまい嘘が付けないと自負している私はあからさまに目を逸らしてしまった。


「ただの予想だったが………当たりかな?」


拓海さんはエスパーなのかな、なんて思う位に鋭い。それくらい鋭くなければ会社の経営なんて無理なのかもしれないけれど。


「何か気になる?」

「……ううん、何も。」

「本当に…君は嘘が下手だな。目を逸らせばすぐに嘘だとわかってしまうだろう?」


引き寄せられて、拓海さんの肩に頭を乗せれば優しく髪を撫でてくれる。
拓海さんに嘘だとばれていても、言わないと約束した以上は言う事はできない。