「そう言えば、拓海…奏多ちゃんのご両親にご挨拶したの?」
「まだこれからです。」
「まぁ、早く行かなきゃ駄目じゃない!ごめんなさいね、奏多ちゃん。」
眉を下げてしまった陽菜さんに私は慌てて首を振る。
言われてみればお母さんには拓海さんの事を何も言ってなかった。
「ご両親は一緒に暮らしているの?」
「いえ、…父は六年前に飛行機事故で亡くなりました。母は私の実家で弟と妹と一緒に暮らしています。」
そう言えば、拓海さんに家族の話をしていなかった。
特に隠しているわけではないけれど聞かれなければ答えない。これが私のスタイルだから。
「あ…そうなの。ごめんなさいね、余計な事聞いたかしら…」
「いえ!父も母も私の自慢ですから。」
「よかったわ。それで…実家はどこにあるの?」
どんな表情をしていても可愛らしい陽菜さんに私は自然と笑顔になる。
隣にいる拓海さんは英部長とお酒を飲んでいるし、お父様の音弥さんも黙って私と陽菜さんの話を聞いてくれている。
「北海道なんです。私だけこちらにきたので…ずっと帰れていないんですけど」
「それは寂しいわね…そうだわ!今度、奏多ちゃんのご家族を家に呼んでみたらどうかしら?」
さも名案だと言いた気に満面の笑顔の陽菜さんに無理だなんて言う勇気は私には持ち合わせていない。
目の前にいる陽菜さんと、静かに話を聞いている音弥さん。
拓海さんは一体誰に似たのか少しだけ不思議に思った。