「あの、聞いても良いですか?」
「ん?なに?」
「英部長の恋人って、どんな方なんですか?」
一瞬、歪められた眉に私は気付かずに英部長を見ていた。
部長は少し考えるような仕種を見せてから、ゆっくりと思い出しながらと言うように言葉を紡ぐ。
「そうだなぁ…気が強いよ。それでも寂しがりで甘えん坊。俺が守らなきゃって思えるような可愛いヤツだよ。」
優しげに目を細める部長は本当に恋人が大好きなんだ。
じゃないとこんなに優しい表情はできない。
「部長はその方の事、本当に大好きなんですね!」
「………あぁ、この世で1番大切だよ。自分よりもね?」
少しだけ羨ましかった。こんなに愛せる人がいるのは本当に幸せだと思うから。
「綺麗な方なんでしょうね…見てみたい。」
「はは…機会があればね?」
悪戯な笑みを浮かべる部長の内心なんて、私には理解できていなかったんだ。
愛していたって、どんなに想っていたって、苦しい恋だってある事を私は知らなかった。
「奏多、探したぞ?」
「あ、拓海さん。ごめんなさい…お庭が綺麗だったから」
安心したような表情をする拓海さんに鉢合い、英部長と電話の事は言わないと約束したから庭を理由にして謝った。
嘘をついたみたいで申し訳なかったんだけど。
「…伊織といたのか?」
「う、ううん。今さっきそこで鉢合わせしたの。」
「そうそう。仕事の事で連絡してたら陰からとび出てきたウサギちゃんと鉢合わせ。本物のウサギかと思ったくらいだ。」
茶化すように言う英部長に頬を膨らませれば、拓海さんが苦笑しながらも頭を撫でてくれる。
「あまり奏多を虐めるなよ、」
「はいはい。ほら、あんま待たせたら音弥さんたちむくれるぞ。」
片手をヒラヒラさせ、先に行ってしまった英部長に私と拓海さんは同時に噴き出して、後を追うように歩きだした。