ベッドに横たわり、布団を掛けて眠る奏多の柔らかい髪を撫でながら無意識に口許が緩んでしまう。

泣いて赤くなった目尻に指を滑らせ、辿れば小さく反応するように身じろぐ奏多が何より可愛くて、ただその無垢な寝顔に魅入った。


「拓海、奏多さんまだ起きないの?」

「えぇ、疲れていたのかもしれません。」


部屋の入口から声を掛けてきた母親を見る事なく、そう返せば小さく笑う声が返ってくる。


「拓海、本当に奏多さんが大切なのね?そんな拓海、初めて見るわよ?」

「…放っておいてください。」


母親に言われればさすがに恥ずかしい。できれば放っておいてほしいが、そうはさせてくれないだろう。


「ふふふ…音弥さんもすぐに帰ってくるそうよ。御祖父様はお仕事で無理だと嘆いていたけれど」


両親は自分の自慢で憧れなのかもしれない。
未だにお互いを名呼びし、恋人のような関係を続けている。

自分もいつかこんな風に接し合える女性に巡り会えれば、と思っていた。

由里の事がありそんな理想はクソ食らえだと少しばかり捻くれた時期もあった。

それでも、今は、目の前で眠る君とそんな理想に少しでも近付きたいと、柄にもなく思っていたりもするんだ。