英部長のスネをパンプスのヒール(幸か不幸か、今日はピンヒール)で思いっ切り蹴ってやった。


「い……っ!」

「少し見直したのに…英部長さいってーです!」


物凄くタイミングよく、ポーンと音を立てて開いたエレベーターを飛び降りて、全力で社長室へと走る。
後ろをちらりと見れば未だにうずくまる英部長、少し…ほんの少しやり過ぎたかも…と反省しつつ、やっぱり悪いのは英部長だと言い聞かせて、社長室の扉の前に立つ。

今までイライラしていた気持ちなんて微塵もなくて、あるのはドキドキ。
二週間ぶりに会える拓海さんを想って、震える手でゆっくりと扉を開いた。


「…どうぞ。」


扉越しに聞こえる声にますますドキドキが大きくなる。
力の入らない足に全力で力を込めて、小さく、失礼します、と言いながら扉を開いた。


「………奏多?」

「あ……あの…、柏木部長からこれを、」


名前を呼ばれただけで震える足や声。必死に言葉を繋げて抱きしめていた書類を拓海さんに見せれば綺麗な笑みを見せてくれる。


「ありがとう、」

「いえ……」


書類を持ったまま動けない私に拓海さんが手でおいでおいで、と手招きする。


「あ…」

「奏多、おいで?」


切れ長のダークブラウンの瞳を細めて、甘い声で呼ばれてしまえば抗うなんてそんなもの頭にはなかった。