「昼間の話しだけど…」
「あ……はい、」
急に話し出した社長に無意識に背筋を伸ばした私に社長は苦笑を浮かべて、小さく息を吐いている。
「俺が言った事…真剣に考えてもらえないか?」
「………あ…えーと……」
恐らく、いや、確実に嫁の話しをしている社長に私は思わず言葉を濁してしまった。
「君とは14も年が離れているから億劫なのは理解しているつもりだ。…だが…俺は面白半分で言ったわけではない。それだけは理解してくれないか?」
かちあった目があまりにも真剣で、ダークブラウンのその目に吸い込まれそうな錯覚すら覚えてしまう。
「34にもなって恥ずかしいが……一目惚れなんだ。」
言いにくそうに言葉を濁す社長はなんだか可愛くて一回り以上年上なんて思えなかった。
それよりも、一目惚れと言う言葉にどこか親近感すらある。
あぁ、そっか…
「一目惚れって…私信じてなかったんです。」
「あぁ…」
「正直…、今まで恋なんてしたことなかったし…恥ずかしいけどお付き合いした事もなかったんです。」
馬鹿にされると誰にも言わなかった事をどうして社長に言おうと思ったのかは自分でもわからないけれど、
社長には理解してほしい、
どこかでそう思う自分がいた。
「キスもした事ないような小娘なんです、私…大切な事は本当に大切な人としかしたくなくて…」
「良いんじゃないか?そうやって自分を大切にできる女性は素晴らしいと俺は思うよ。」
正直、すごくホッとした。
その瞬間に、やっぱり、と考えていた気持ちに勝手に名前を付けてしまった。