「……おじいさん…」
「何かな?葵ちゃん…ではなく奏多ちゃん。」
勇気を振り絞りおじいさん、と呼べば嬉しそうに目尻に皺を作る会長。それになんだか私もうれしくなってしまう。
「皆さんの前ではムリですけど…こうして誰もいない時だけおじいさんで良いですか?」
「もちろんだよ。」
会長はどこか祖父に似ている。私のおじいちゃんもこんな柔らかい雰囲気を持った人だった。
だからか…会長をおじいさんと呼ぶことにあまり躊躇いはなかった。
「改めてお礼がしたいのだが…些か、私には男の孫しかおらんのでな…何をすれば君が喜ぶかわからんのだよ。」
「そんなのいりません。私はただ…ヒトとして当たり前の事をしただけですから。」
そう、困っているヒトが周りにいれば助けるのは当たり前。
私はもういない父にそう言われ育った。だからかはわからないけどどうしても困っているヒトはほっとけない。
友達にはお人よしとか、言われてしまうのだけど。
「そうか、では困った事があればいつでも言っておくれ。私も一個人として君の力になろう。」
私は今まで、会社のお偉方は傲慢で自分の事しか考えていないのかと思っていた。
でも、目の前のヒトはそんなんじゃなくて…傲慢どころか、ヒトとしてとても暖かみがある優しいヒトだった。