まだよく事態が把握できていない私におじいさんはにこやかに話し掛けてきた。


「先程は本当にありがとう。君のような優しい女性が我社にいるのは誇らしい事だよ。」

「え?え?」


まだ首を傾げる私に英部長が可笑しそうに笑いながら口許を必死にかくしているのを見て、恥ずかしいよりも苛立ちが勝る。


「葵 奏多くん、私は如月 宗玄。一応この会社の会長だよ。」

「………………は?」


いや、この反応は仕方がないよね。
だってダンディなおじいさんがまさか会長だなんて。
しかも会社の前で一人で具合悪そうにしてるなんて。

誰だってそんなおじいさんをエライ人なんて思わないはずだ。


「先程は名乗りもせずにすまなかったね。」

「………おじいさん…具合は大丈夫ですか?」


目をパチパチしたままそう聞けば英部長は余計に笑うし、おじいさんもまた苦笑を浮かべ小さく頷いた。
とりあえず、具合が良くなったならよかった、と呑気に考え小さくため息を吐き出した。


「ありがとう、君は本当に優しい女性だ。」

「そんな事………………って……あれ?会長?」


いまさらながらに浮かぶ疑問。
そして冷静に頭を整理すれば自分のありえない失態に気付き、思わず青ざめていた。