「...楽しい話じゃないぞ。それでもいいか?」


僕がそう聞くと、


「うん!ありがとう!」


と答えた。


「僕は今、血が少しも繋がっていない両親と暮らしている。本当の両親は、僕が小さい頃に死んだ。母親は6歳のとき、父親は8歳のとき。2人とも、病気だった。」


病気と言った瞬間、光の大きな瞳から涙がこぼれ落ちた。
「母親が病気だって聞いたときも、父親が病気だって聞いたときも、毎日近所の神社に行って、『元気になりますように』ってお祈りをしてたんだ。それでも両親は...、僕が神を信じなくなった理由、わかったか?」


光は小さくうなづいた。


「つらかっ、たね、」


泣きながらそう言った彼女は、涙を拭いて、


「私、神沢くんに聞いてもらいたいことがあるの。話しても、いい?」


と僕に聞いた。僕がうなづくと、静かに語り始めた。
「私、実は...、病気なの。おっきい手術しなきゃ、治らない病気。...私ね、小さい頃から、何回か入院してて、ずっと、『早く退院できますように、早く良くなりますように』って神様にお願いしてた。」


「叶ってないじゃないか。」


「でもね、お願いすると、辛い治療もなんとか頑張れた。神様が応援してくれてるって気がして。だから、神様はいるって信じてるんだ。」


神沢くんと逆だね。


そう言いながら笑う光を僕は愛おしく感じた。
「ひとつ、聞いてもいいか?どうして、僕に話しかけたんだ?」


すると光は照れ笑いを浮かべながら、


「神沢くんのこと、気になってたからだよ。」


と言った。


「光、話してくれてありがとう。光が神を信じてる理由がわかって、少し嬉しかった。」


「ありがとう!その言葉、私も嬉しい!!」
その日は言い合いもぜず、2人で笑いながら帰った。とても、幸せだった。
次の日、光は学校に来なかった。


あんな話を聞いた後だから、心配で仕方なかった。


...光がいないと、こんなに静かなんだな。


その次の日も、学校に来なかった。僕は我慢できなくなり、先生に光のことをたずねた。


すると、


「神沢には言うなって言われたんだけどな、あいつ、持病が悪化して、今入院してるんだ。」


と担任は言った。
「やっぱり。そうだろうと思ってました。場所、教えてもらえますか?」


僕は担任に場所を聞くと、走って病院に向かった。


「光…。」


僕が呼びかけると、


「やっぱり神沢くんはわかっちゃうよね」


と笑いながら言った。

「具合、どうだ?」


「...手術しないとヤバいって。神様がいるから治療頑張れたとか言って、手術だけは怖くてできなかったんだよね...。」


不安そうに微笑む光を、僕は無意識のうちに抱きしめていた。


「え?神沢くん...、どうし...」


「手術、頑張れ。神様なんかじゃなく、僕がついてる。」


「ありがとう、神沢くん。私、頑張るね。あ、でも、私が危ないときは、私の代わりに神様にもお願いしてね?せっかく信じれるようになったんだから。...約束!」
「ああ、わかった。...手術って、いつ?」


「しあさって!!あ、神社なんて行かないで、ちゃんと手術室の前で祈っててね?」


「わかった。」


「神沢くん、そろそろ検査の時間だから...」


「わかった。じゃあ帰るよ。光、頑張れ。」


「うん!ありがとう!!」


病室から出たとき、光の母親に会った。


「あら、光の彼氏?」


「いや、...ただの友達です。神沢といいます。お邪魔しました。」


「また来てあげてね。」


「はい。」


光によく似た、綺麗な人だった。
次の日、僕が病院に行くと、手術室の前のイスに、光の母親が座っていた。


「え...、あの!光の手術は明後日じゃ...」


僕がそう言うと、光の母親は、


「病状が悪化しちゃって...。緊急手術なの。」


「あの、光の手術が終わるまで、一緒に待っててもいいですか?」


「もちろん。...ありがとう。」


それから5時間待ったが、光の手術はまだ終わらない。始まってから、8時間経つらしい。