秋人side

 俺はもともと、ここの中学に入るつもりはなかった。
 小学校の先生も、俺ならもっといいところに行けるって、お前なら大丈夫だって、言ってくれた。樹に受験のことは、言っていなかった。だって言ったら、行くなって言うだろ?

 出来のいい兄に、負けたくなかった。両親にバカにされるのは、嫌だった。俺は、死ぬ気で勉強した。入っていたサッカーのクラブからも抜けた。

 でも、落ちた。


 その時の気持ちなんか、樹には分からないだろうな。俺は、もう消えたいと思った。本気で。

 緑ヶ丘中には、入学式から1ヶ月くらい行かなかった。いわゆる不登校ってヤツだ。

 でも俺は救われた。ある歌に。


 ♪~♪~~~♪~

 ギターと女の人の歌声だけの弾き語りは、聞いたことのない曲だった。

 (なんでっ…)

 知らないうちに、泣いていた。



 そして今に至る。樹は、俺は引っ越したんだとばかり、思っていたらしい。登校した日に、抱きついてきた。やっぱりアホだ。

 歌っていた子が、俺の席の隣の子だと気づくまで、まだまだ。