「ファッション雑誌とかの仕事もされてるんですよね??? だったら、うちのメンバーの西埜耀(にしのよう)知りません???」
「西埜くん知ってます!! あっ、そうか、西埜くんてアイドルだった」


私が担当している雑誌『GOODBOY』の専属モデルをしている西埜くんとは、月に一度は顔を合わせる。
そうか、西埜くんてアイドルだったね…


「GOODBOYの時の西埜ってめっちゃ格好良いですよね!! あのスタイリングって絵那さんがされてるんですか???」
「あ、ハイ、そうです」
「えー!! そうなんですか!! 今日の撮影めっちゃ楽しみになった!!」


さっきまでガチガチ緊張モードで能面みたいな顔だった彼が、目をキラキラさせて名前呼びで満面の笑みをこちらに向けてくる。
疲れてるからか、不覚にも射抜かれそうになってしまった。
ファンの子はこんな笑顔にやられちゃうんだろうなぁ…


撮影に入ると、アイドルっぽくないと思ってしまった事を申し訳なく思う程のアイドルオーラがバンバン出ていて、直視出来ないくらいまぶしかった。


それでも謙虚な姿勢は変わらずで、衣装チェンジの度に手直しに入る私にすみません、とかありがとうございます等いちいち伝えてくれていた。


撮影終了後控え室へ衣装を引き取りに向かうと、彼はまだ帰っていなかった。


「失礼します。 お疲れ様でした。 衣装引き取りにきました。」
「あっ!! 絵那さん!! 今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました。 まだ帰られてなかったんですね」


帰り仕度は済んでいそうだったが、机には何やら勉強道具が広げられていた。

「講義までの時間、ここで時間潰させてもらおうと思って」
「えっっ、大学生なんですか!?」
「そうなんですよー、もうすぐ課題提出なんでちょっとした時間でもやらないと」


アイドルってだけでも充分忙しいのに、更に大学にまで通ってるなんて…
大変じゃないのかな…


「すごいですね。 忙しいのに大学まで通ってるなんて」
「大学卒業するまでは学業優先なんで、他のメンバーよりは働いてないんで全然すごくないですよ、メンバーに暇弄りされるぐらいなんで」
「そんなそんな」


謙遜してるけど、仕事と学業の両立はきっと並大抵な事じゃないと思う。


「あっ、絵那さん、そのブルゾン、買い取りしてもいいですか???」
「あっ、いいですよ。 これ、すごく似合ってましたねー」
「ショップとか行ってもなかなかいいの見つからなくて。 初対面なのに絵那さんすごいっすね」


ハンガーラックに掛けてあった衣装を1枚1枚腕に掛けていると、レポート用紙の方に目を向けていたはずの彼が話し掛けてきた。


「本当に失礼で申し訳ないんですけど、大森さんの事存じ上げなくて、宣材写真と体型だけでイメージふくらませたんですよ」
「いえいえ、俺ドラマとかにも出てないし知名度全然っすもん。 あ、でも今度かなり久しぶりにドラマの仕事きたんです!! あ、これ今着て帰ってもいいですか???」
「あ、どうぞどうぞ。 ドラマ、良かったですね」


気に入ってくれて良かった。
スタイリストにとって、自分のスタイリングした衣装を気に入ってもらえるのは、何よりの褒め言葉だ。
この仕事に就いて良かった、と、思える瞬間ーーー