「信頼してるねー、彼の事。 私はダメだわ、男は基本浮気する生き物だと思ってるから。 しかも独占欲強いし私。 だから長続きしないんだろうなー」
「でも男の人ってやきもちとかやかれたいんじゃないの??? 芹菜の素直に感情を表に出せる所、羨ましいよ」
「なんかすぐイラッときちゃって、すぐケンカになっちゃうんだよねぇ…、次こそはイライラしない恋愛したい!!」


会計を済ませ車に乗り込む。
私は午後から雑誌の撮影、芹菜はファッションショーの打ち合わせらしい。


「芹菜ごちそうさま。 またランチ行こーね。 今度は私がおごるから」
「久しぶりに色々話せて楽しかった。 たまには息抜きしないとね。 またねー」


車の中に残しておいた、次の撮影用の衣装をチェックしてスタジオに向かう。
今日は男性ファッション誌には珍しい、アイドルの男の子の撮影だ。


「おはようございます」
「おはよう~~、絵那ちゃん、今日もよろしくね!!」


明るいカメラマンさんやちょっと気難しい照明さんなど、いつものメンバーと軽く挨拶をしてモデルさんの控え室に衣装を掛けにいく。
初見の方だったので、打ち合わせ時に頂いた宣材写真から、顔や体型に合うだろう衣装を選んできた。


「失礼します」
「はいっ」
「あっ、本日衣装を担当させて頂きます、丸山絵那と申します。 よろしくお願いします。 衣装掛けさせてもらいますね」


びっくりしたー、一応ノックはしたけど、もう来てるなんて。
入り早いな…
スタッフの挨拶はいつもは撮影に入る前にする事になってるのに、先になっちゃった。
ファッション誌のモデルさんは大抵撮影開始時間のギリギリに来られるんだけど、普段TVのお仕事の方だから早く来ちゃったのかも。


「ありがとうございます」
「入り、お早いですね」
「えっ、あっ、すいません。 ファッション雑誌に一人で載るのって初めてで… いつもメンバーがいるから一人ってのも慣れてなくて… マネージャーからはちゃんと時間聞いて来たんですけど、早かったですかね???」


なんか…、おどおどしてて、全然アイドルっぽくないんですけど…
アイドルの人って普段からもっとキラキラオーラが出てるもんだと思ってたけど…


「TVは打ち合わせとかもあるから、かなり早く入らないとダメですもんね。 雑誌は打ち合わせとかないんで、モデルさんとかいつもギリギリに入られますよ」
「そうなんですね。 勉強になります。 あっっ、TVのお仕事もされてるんですか??? 僕…、仕事ご一緒した事ありました…???」


彼はハッとしたように口に手を当て、今までに私とどこかで出会っていたかどうかを必死に思い出そうとしているようだった。


「初めましてですよ」
「あっ、そうですか、良かった~~。 もしかして何かでお世話になってたのに初見みたいな態度取っちゃってめっちゃ失礼な事してたかなって不安になっちゃいました。 あっ、俺、UNIONていうグループの大森駆(かける)といいます。 よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。 UNION…ていうグループ名はなんとなく知ってるんですけど…、アイドルの方に疎くて、ほんとにすみません」


ここ何年かは家でゆっくりTVも見ていないので、人気のアイドルとか、アーティストとかにめっぽう弱く、私の中の芸能人情報は何年か前の状態で止まっている。