「あ~、道混んでる~~、もうちょい時間ズラせば良かった~~」
「まぁまぁ、後1件終わればオシャレなランチが待ってるよ~~、頑張ろ」


私の職業はスタイリスト。
専門学校を出て、今年で7年目。
学生の頃に憧れていたスタイリスト像とはけっこうかけ離れてて、今も借りていた衣装を大型のバンに積んで、1件1件返却している所だ。


「ワンピース3点と、スカート5点、確かに受け取りました」
「ありがとうございました。 またよろしくお願いします」
「こちらこそ、お願いします」


車の免許なんて、取っても乗らないかなーと思ってたけど、現在毎日フル稼働で乗ってる。
都会の運転は慣れない。 疲れる。
それでも、自分がスタイリングした衣装が雑誌に載ったりTVに映ったりするとやりがいを感じられる。


「わー、おいしそ~~」
「オシャレ~~ 女子力補給しとこ」
「絵那はまたむさ苦しい男社会に戻るもんね。 今日はありがと、私の返却分も一緒に積んでもらっちゃって」


彼女は専門時代からの友達で同僚の横田芹菜。
東京に来てからは唯一心を許せる親友だ。


「いいのいいの、ちょうどスペース空いてたし、ガソリン代の節約だよ」
「ホント助かったよー、今日はおごるね」
「ほんとー!? ラッキー」


彼女は女性ファッションを専門にしている。
女性ファッション誌やファッションショーとかでも仕事をしてて、絵に描いたような華やかな世界にいる。
一方私は男性ファッションを専門にしていて、男性ファッション誌やTV番組とかの仕事をしている。
スタッフも男性が多く、華やかとはかけ離れている。


「そうそう、今月号のsmashの芸人さん特集見たよー 芸人さん一人一人の個性は活かしつつ、格好良くキマッてたー!! 絵那っぽさが出てたよ」
「見てくれたんだー、ありがと」
「みんな格好良かったけど、『うっちー』さん、かなり個人的に力入ってませんでした??? アレ」


そう、『うっちー』とは私の彼。
本名は内田雄一。 ものまね芸人として絶賛売り出し中。
同じ高校の2つ先輩で、東京で偶然再会して今に至る。
付き合ってもうすぐ5年になる。

「バレた??? でも周りには内緒だからね…」
「撮影の時バレなかったの???」
「うん、お互いめっちゃ他人行儀。 初見みたいな話し方したよ」


芸能人という仕事柄私達が付き合っているという事は限られたごく少数の人にしか言っていない。
職場で知っているのは芹菜だけだ。


「すごいよねー、それで5年徹底してるんだもんねー、尊敬するわ。 私だったら無理だもん」
「んー、でも雄一が努力してるとこもずっと見てきたしね、今は特に大事な時期だから、足引っ張りたくないし」
「えらいねー、ほんと最近内田さんTV出るようになったよね。 一緒に暮らしてても全然会えてないんじゃない???」


雄一と同棲して1年程…
ここ半年ぐらい、雄一の仕事が急激に忙しくなって、一緒に暮らしてても会えるのは週に一度ぐらいになった。


「私も忙しい時は会社に泊まっちゃうからなー、一緒にごはん食べれるのは週一ぐらいかな???」
「そんなぐらいなの!? さみしくない??? あと
心配じゃない??? 浮気とか…」
「5年も付き合ってるから週一会えるぐらいの方が新鮮でいいのかも。 浮気は今までした事ないし、雄一まじめだから多分そんな器用な事できないよ」


全く心配してないと言ったら嘘になるけど…、芸人さんだし付き合いもあるだろうし、強い気持ちでいないといちいち不安になってたら身が持たない。