「繰り返しますが、きみにかまうつもりも時間もないんですよ」


「この迷宮を現出させたチカラの持ち主たるボクらとの会話の中に、ゲームクリアのヒントがあるかもしれないぞ。ないかもしれないが」


「……ロマンスを語る文才は持ち合わせていませんね。大げさな表現もクサい比喩も嫌いです。言葉は、正確さを期することだけ心掛けています」



だから今も、正確な言葉を選んで使うことにしようか。


ぼくは息を深く吸って、言葉とともに吐き出した。



「【黙ってろ、ゲス野郎! その汚い口、しばらく閉ざしてろ!】」



祥之助が目を剥いた。


口は動かない。頬の筋肉がひくつく。



号令《コマンド》だ。チカラの込め方がわかった。



【離れろ】



祥之助が、見えない腕に引きずられるように、一歩二歩と後ずさる。