口を尖らせた波音は、わずかに頬を染めて早口で言った。


「来年も、あたしと海に来てください。それが……絵を受け取る条件です」


プールの底から水面を見上げるとき、必ず波音は波糸のことを考えていた。


波糸が最後に見たかもしれない光景を見たかったから、毎朝水の中から二重の空を見上げていたのだ。


でも、海音の絵を見てからは、海音のことしか考えていない。


波音は、その事実で自分の心を理解したのだ。


海を見つめたまま告げられたその言葉を、海音は条件付で了解した。


「来年の夏まで、お前の隣を空けておくこと。今は何も言えないけど、来年になればしがらみも消える。……言ってること、分かるよな?」


「……はい」


考えていることは、お互い一緒だったということだ。


「来年は……浜まで下りてみようか」
 

海音の言葉に、波音は大きくうなずいた。






あたしは、人魚にはなれない。


でもね、波糸。


海と同じくらい惹かれるものを、あたし、見つけたの。