お互い、いい機会ではないのかと思った。


偶然にも海に入れない人間同士が出会って、お互いの『理由』も打ち明けた。


そろそろ、海に触れてもいい時期なのではないかと、波音は思ったのだ。


「そうだな。……海に来て良かった。海良が綺麗なところにいると分かったし、それに新しい目標もできたしな」


誘われて良かったと、海音はいう。


なぜ、今なのかとは、思わなかった。


このタイミングだからこそ、波音は海に行こうと言ったはず。


今日この日を逃せば、多分この先一生海音も波音も、海に来ることはなかった。


「目標、ですか」


「ああ。まだ、俺は全然『海』を描けていないんだって分かった。海良の為に今まで描いてたけど、これからは自分の為に描くことにする。あの『青』を、出してみせる」


「……その『青』が描けたら……先生、あたしに見せてくれませんか?」


力強く宣言する海音に、波音は控えめに言ってみた。


今でもあんな綺麗な色を出せるのに、この上もっと綺麗な色を出すなんて。


きっとそれは、プールの底から見る空よりももっとうつくしい、海の中から眺める空に、限りなく近いものなのだろう。


あつかましいかもしれないと思いながら聞いた波音の願いは、いともたやすく受け入れられた。