昨日までなら、この時間には確実に開いていた。


早起きが癖になってしまったと二ノ宮は言っていた。


そういえば、と波音は思う。


昨日、二ノ宮の様子がおかしかった。


約束通り、重箱を持って昼に美術室を訪れると、すでに二ノ宮の表情がいつもと違っていた。


いつもは能天気な顔で笑っているのに、昨日は少し強張った顔をしていて、波音も心配したほどだ。


大丈夫かと声をかければ、大丈夫だと言うのでそのまま食事にした。


食後、お礼の絵を見せてもらって、波音はその絵に釘付けになってしまったので、二ノ宮の様子のことは頭の片隅に追いやられたのだ。


やっぱり具合が悪かったのかな。


今日も弁当を作ってしまったので、昼に様子を見に行くことに決めた。


プールの中央で、鼻をつまんで思い切り沈む。


水の中から空を見れば、夢のような光景が広がっていた。


綺麗なものだけで作られた、美しい空間。


二ノ宮の絵も、これに似ていた。


一面の『青』が、きらきら光っているうつくしい絵。


ひたすら陽光をはじく海面だけを描いた絵で、あんなに心を惹かれるとは思っても見なかった。


もう一度、見せてもらえるかな。


プールの底で、波音は初めて『ナイト』以外のことを考えていた。