「ねえ、カノンちゃん」


窓の桟にもたれかかって、峰が呼ぶ。


キャンバスから目を逸らさずになんだと答えると、カノンちゃんはさ、と話し始めた。


「カノンちゃんは、自分に『海』の字がつくから、海の絵を描くの?」


……峰も、そういう解釈をしたか。


俺が描く『青い絵』は、海の絵だ。


名前に『海』の字がつくから、海が好きで、だから海の絵を描くのだろうと言う人間が多い。


俺も、そう尋ねられたら否定はしないから、業界内では結構有名な話になっているらしい。


だから、峰にも否定はしない。


「そうだ、な」


俺が海の絵を描く本当の理由は、まったく違うのに。


別に、俺が何を思って海の絵を描こうが、関係ないだろうに。


俺は、俺の絵を誰がなんと解釈しようとかまわない。


ただ、自分の好きなように絵を描いていたいだけだ。


画家として名を売りたいわけじゃない。


自分の好きなように絵が描けて、生きていければ十分なんだ。


「カノンちゃんは、海が好きなんだね」


今度は、問いかけではなく確認だった。


俺は、それには答えなかった。