「けーちゃん?」


「そー。けーちゃん。あたしのダーリン、江藤啓太くん。二年生で美術選択だから、カノンちゃん知ってるでしょ?」


確かに知ってる。


二年六組の生徒だ。


豪快な坊主頭だから、よく覚えてる。


……坊主頭ってことは。


「野球部か?」


「当たり。今日も一生懸命練習してたよ」


なかなか会えない彼氏と会うために学校まで来た、ということらしい。


「差し入れを持ってったらすっごく喜んでくれたんだ」


高校生らしい、ほほえましい話だ。


しばらくけーちゃんがどうしたの、けーちゃんがこうしたの、という『けーちゃん話』を聞かされながら手を動かしていると、不意に峰が黙り込んだ。


「……どうした?」


筆を止めて隣を見ると、峰はキャンバスをじっと見ている。


食い入るように見つめた後、はあぁ、と大きなため息をついた。


「なんだよ、急に」


「やっぱり、カノンちゃんが描く絵は違うなあ。迫力って言うか、吸引力って言うか……。あたしもこんな風に描ければいいのに」


ちゃんと勉強してるんだけどな。
 

くやしそうにつぶやいている峰は、お調子者だがいい絵を描く。


油彩が好きらしく、よく静物画を描いている。


中学の時も美術部だったらしく、高校に入ってからは何回か賞も貰ったと話していた。