ナイトも、見つけたんだよね。そういう『何か』を。


プールの底から水面を見上げるとき、波音はいつも思う。


海に魅せられた親友のことを。


きらきら光る二重の空を、連なる幾つもの泡沫を、彼も見たのだろうか、と。


息が苦しくなるまでもぐり続けて、急いで水面まで上がる。


息が苦しくなって、心臓が肋骨を打つように暴れているこのときに、波音は思い知らされるのだ。


自分は、どうあっても人間なんだと。


ようやく息が整って、顔を上げる。


何とはなしにプールと隣接する校舎を見上げると、二階の美術室の窓が開いていた。


二ノ宮先生、今日も早起きしたんだ。


波音には、二ノ宮はつかみ所のない人間に思えた。


いい加減なのかと思えば、そうでもなくて。軽口をたたいた直後に、まじめな顔をして、泳ぐの好きか、なんて聞いてくる。


それに、と波音は思う。


昨日も一昨日も、合宿のことには触れなかった。


こんなに反応がないのは初めてのことで、波音としてもどうしていいのか分からない。


聞かれても困るのに、聞いてこないなら聞いてこないで気になる。


自分勝手にもほどがある、と波音は自嘲する。


自分勝手ついでに、全部二ノ宮が悪いんだと責任を押し付けて、波音は練習を始めた。