そこまで言って、わたしは言葉を詰まらせた。

言い淀むわたしの気持ちを察したように、姉が電話のむこうでクスッと笑った。


「大丈夫だよ、もう」


その声で、姉がすでにわたしを許してくれているのだとわかった。

けれどわたしは「ううん」と首を振り、声を荒げた。


「わたしが‥‥‥っ、あんな事故を起こしたせいで、お姉ちゃんたちは別れたんでしょ?」

「ちがうよ、葉月。わたしとタイショーは、もうダメになってたの。
お互いに自分の主張ばかりで、相手を想いやれなかった。それは葉月も知ってるでしょ」

「でもっ、あんな最悪の形で終わらせたのは、わたしじゃん!」

「もしそうだったとしても、そのおかげで、わたしは今、幸せよ」

「‥‥‥‥」


温かい、だけど凛とした姉の声に、わたしは息をのんだ。


「たしかに、あのときは辛かった。もう二度と笑える日なんて来ないって思ってた。
‥‥‥でも、気づけば普通に笑ってる自分がいた」


ふふっ、と姉が思い出し笑いをこぼす。


「すごいよね、“普通”ってさ。あんなに大好きだったタイショーが、いない世界が普通になるってさ」

「普通、に‥‥‥なるのかな」


わたしには、無理だった。タイショーを失ってからずっと、普通だなんて思えなかった。


「ねぇ、お姉ちゃん‥‥‥変なこと言ってもいい?」

「うん」

「わたしね、心の中にぐちゃぐちゃの部屋があるみたいなんだ」

「部屋?」