「メダマヤキハイル?」
僕は微笑んで首を振った。
お腹は、空いていない。
「…アヤネ、ソウイッテキノウモタベテナイデショ!タベナキャダメダヨ!」
無理に食べても吐いてしまうし、怒るショウに謝って僕は鞄にスケッチブックを入れた。
今日は、そうだな。
整頓された引き出しから108色セットの色鉛筆を抜き出す。
同じメーカーの、バラバラの色鉛筆も数本持ってペンケースに入れて。
折れたら困るから、削る用にナイフもしまう。
優しい橙のリュックサックに全てをしまって、底にあったデジタルカメラも引っ張り出してウェストポーチに突っ込む。
財布もポーチに入れて、僕は大きなレンズの眼鏡をかけた。
この眼鏡は、僕の目を少しだけ良くしてくれる。
服の輪郭くらいには、ヒトが見える。
僕はうーんと背伸びしてスニーカーに足を入れた。
勝手に紐が踊り、たちまち綺麗な蝶々結びになって視界から消えた。
靴をはいたことで、物ではなくヒトの一部と認識されたんだと思う。
スニーカーはぼやけて消えた。