辺りは喧騒に包まれているはずだけど、ぼくには何も聞こえなかった。



静かで残酷な霧の森。

その世界には、僕と翔しか居なかった。



翔はバラバラに吹き飛んで、僅かに残っていたのは頭蓋骨の一片と歯、左手とそれが握っていたペンダント。


存在だけはなんとか感じられていた翔の家族がしゅぅぅっと、ゆっくり消えていくのが分かった。


ヒトに対して、ぼくは完全に興味を失った。

ぼくは独りだった。

いや、独りですらなかった。


覗き込んだ鏡には、背後の木々が揺れていたから…



翔は全てをぼくにくれたけど、ぼくから全てを奪っていった。

夢も。

希望も。

自信も。

感情も。

ヒトも。

自分自身でさえ、ぼくは証明できない。


この目に、鼻に耳に指先に。

触れるのは壁で、決して生きてはいない。



その日、ぼくはきっと。


初めて泣いた。